2020年度公立高校入試概況
はじめに神奈川県全体の状況についてお伝えします。【1】の資料をご覧ください。これは年度ごとに県内の公立中学校卒業生数、公立高校全日制の募集定員、公立高校全日制の応募者数について前年度との比較(増減)を棒グラフで表したものです。学校基本調査によると、今春は昨年よりも卒業生数が1,644名少なく、それにともない県は公立高校の募集定員を1,479名と大幅に削減しました。しかし、募集定員の削減数以上に応募者がマイナス2,589名とこれまでにない大きな規模で減少し、「受験生が集まらなかった」ことが特徴的でした。その結果、募集定員に満たず予定通りに合格者を出せなかった高校が増えました。2018・2019年度入試でも同様の傾向はすでに見られましたが、2020年度はそれがより顕著となりました。理由の1つに「私立学校学費支援制度」があげられます。神奈川県内在住で対象となる私立高校に通う場合、所定の世帯年収未満であれば授業料や入学金の補助が受けられるというもので、これを活用して私立高校進学を選択した受験生も多かったと思われます。
2020年度の全日制公立高校の実質競争率(合格発表時の競争率)は1.18倍で2019年度の1.19倍とほぼ変わらない数字でした。しかし、高校・学科ごとの状況は一律ではなく、詳細を見ていくと全体の競争率では見えない実情がわかります。【2】は2013年度から2020年度入試で2学級以上募集のあった全日制高校・学科の実質競争率を分布図で示したものです。2020年度、1.5倍以上・1.4倍以上・1.3倍以上の暖色で示した高倍率高校・学科の割合は2019年度とほぼ同じです。しかし、濃い青色で示した「実質倍率が1.0倍ちょうどか定員割れ」の高校・学科の割合は全体の30%近くを占めており、「現行入試制度開始以降最大の600名規模」とお伝えした2019年度よりもさらに多い、41校55学科1,071名の二次募集が行われる結果となりました。
【3】は2020年度入試の高倍率校(2学級以上募集のあった全日制高校・学科について)のランキングです。県の学力向上進学重点校に指定されている横浜翠嵐・湘南・柏陽の3校に加え、大和・多摩・横浜緑ケ丘といった学力向上進学重点校エントリー校や横浜市立の進学指導重点校である市立横浜サイエンスフロンティアや市立桜丘もランクインしています。大学進学に力を入れていて、かつ実績をあげている進学校は毎年高倍率化する傾向が見られ、安定した人気を維持しています。
【3】2020年度高倍率校トップ20
校名 | 学科コース | 合格者数 | 実質倍率 | 2019年度 | |
---|---|---|---|---|---|
1 | 神奈川総合 | 国際文化コース | 89 | 1.76 | 1.70 |
2 | 神奈川総合 | 個性化コース | 160 | 1.73 | 1.83 |
3 | 横浜翠嵐★ | 普通科 | 360 | 1.71 | 1.84 |
4 | 横浜市立横浜 サイエンスフロンティア◇ |
理数科 | 158 | 1.63 | 1.24 |
5 | 新城 | 普通科 | 269 | 1.62 | 1.39 |
6 | 大和☆ | 普通科 | 279 | 1.56 | 1.30 |
7 | 柏陽★ | 普通科 | 318 | 1.53 | 1.42 |
8 | 横浜清陵 | 普通科 | 266 | 1.50 | 1.44 |
9 | 横浜市立桜丘◇ | 普通科 | 318 | 1.48 | 1.55 |
10 | 湘南★ | 普通科 | 360 | 1.48 | 1.64 |
11 | 多摩☆ | 普通科 | 278 | 1.45 | 1.61 |
12 | 横浜市立戸塚 | 普通科 | 279 | 1.45 | 1.20 |
13 | 川崎市立高津 | 普通科 | 278 | 1.45 | 1.21 |
14 | 元石川 | 普通科 | 358 | 1.44 | 1.30 |
15 | 横浜市立東 | 普通科 | 268 | 1.44 | 1.47 |
16 | 追浜 | 普通科 | 278 | 1.44 | 1.20 |
17 | 港北 | 普通科 | 319 | 1.42 | 1.16 |
18 | 湘南台 | 普通科 | 247 | 1.40 | 1.16 |
19 | 相模原弥栄 | 普通科 | 183 | 1.39 | 1.17 |
20 | 横浜緑ケ丘☆ | 普通科 | 280 | 1.39 | 1.73 |
※2学級以上募集のあった全日制高校・学科のみ
※倍率は実質競争率(合格発表時の競争率)
※★は県立の学力向上進学重点校、☆はエントリー校。◇は横浜市の進学指導重点校
学力検査5教科計の合格者平均点は25点アップ
神奈川県教育委員会は3月24日(火)に「令和2年度神奈川県公立高等学校入学者選抜学力検査の結果」を公表しました。この発表資料をもとに、学力検査の合格者平均点の推移を【4】にまとめました。まず、5教科全体の合格者平均点について、2020年度は288.3点と2019年度から約25点上昇しています。教科別では理科が、2019年度易化の反動で難化し5点ほど下がりましたが、数学・国語・社会は比較的取り組みやすい問題だったこともあり、それぞれ合格者平均点は上昇しました。実施結果の概要には、「条件を正確に読み取り考察することが必要」「知識や与えられた情報を条件に合わせて整理し、活用する」「複数の分野で学習した知識・技能を活用した思考力・判断力を問う問題及び、概念の理解を問う」といった問題では正答率が低かったとあり、受験生に求めている力がよくわかります。基礎知識をきちんと身につけ、それを結びつけながら物事を考えて理解を深める、一方向だけでなく異なる視点からも考えてみるといった訓練を日ごろから積んでおく必要があるといえます。「令和2年度神奈川県公立高等学校入学者選抜学力検査の結果」には教科別得点分布や設問ごとの正答率、また各教科の出題のねらい等も掲載されていますので、今後の学習の参考にしてみてください。
神奈川県教育委員会の発表ページを見る
英語 | 数学 | 国語 | 理科 | 社会 | 5科計 | |
2020年度 | 49.4 | 55.7 | 69.1 | 55.9 | 58.2 | 288.3 |
2019年度 | 49.8 | 50.3 | 59.1 | 61.3 | 42.5 | 263.0 |
2018年度 | 56.1 | 56.0 | 65.6 | 45.3 | 41.8 | 264.8 |
2017年度 | 51.9 | 63.5 | 73.1 | 46.9 | 54.5 | 289.9 |
2016年度 | 43.0 | 51.7 | 64.7 | 46.5 | 52.0 | 257.9 |
2015年度 | 51.8 | 52.6 | 64.4 | 37.4 | 50.2 | 256.4 |
2014年度 | 59.6 | 51.7 | 60.8 | 38.6 | 49.5 | 260.2 |
2013年度 | 54.8 | 65.5 | 67.8 | 66.4 | 51.1 | 305.6 |
※各教科100点満点
学力向上進学重点校と同エントリー校は17校すべてで
共通問題および共通選択問題による特色検査に
2020年度は県立の進学重点校と同エントリー校の計17校で共通問題と共通選択問題を組み合わせた形式による特色検査が実施されました。全校共通の問1・問2に加え、共通選択問題の中から学校ごとに2問を選んで出題するというスタイルは2019年度と変わりません。多くの受験生が出だしから苦戦したと思われるのが共通問題の問1です。英語の会話文をベースに展開され、缶を題材に数学の知識を問う、さらにリサイクルをテーマにした資料(グラフ)を読み取って解答するという教科横断型の出題でした。選択肢も複雑で、正解を導くまでに非常に手間と時間がかかる難問でした。2019年度は取り組みやすかった問1が難化したことで、その後の設問に向かう時間が不足したと思われ、2020年度の特色検査平均点は2019年度より大きく下がったようです。
共通選択問題は2019年度の4問から1問増え、5問(問3~問7)の中から各校が2問を選択しました。漫画「コボちゃん」を題材にした表現力をみる新しいタイプの出題がされたことは特徴的で、新規の実施校である川和・光陵・多摩・横浜緑ケ丘の4校がこの問題を採択しました。
進学重点校や同エントリー校では学力検査の易化で差がつきにくくなったため、特色検査の得点差が合格・不合格に大きく影響しました。これまで以上にしっかりとした対策を行う必要があります。
特色検査に対応できる学力を身につけることを
中学校3年間の学力到達目標に
公立高校入試で「人気の二極化」が進む傾向は2021年度も続くと思われます。それは受験生が自分の行きたい学校に果敢にチャレンジしている結果のあらわれともいえます。中学生の皆さんには特色検査に対応できる学力を身につけることを3年間の学力到達目標として日々の学習に励んでほしいと願います。中学3年間で培う学力は新しい大学入試を突破するための土台となり、社会に出て必要となる力にもつながるでしょう。